
争って倒すのではなく、“鎮魂し崇め奉る”
日本には荒ぶる魂を鎮魂へ導き調和をはかる神話や場面がみられます。
荒ぶる荒魂や怨霊となった魂を憐み、その魂の無念を理解し、慈悲をかけ、その苦しみから解き放たれるよう鎮魂を祈り、苦しみから解き放とうとする場面の描かれている物語です。
他の国には、“善”とされる存在が、“悪”とされる存在のことを、戦いの末に消滅させるヒーローの登場する物語が多い中で、日本には、敵とされる存在にも情をかけ、慈悲をかける物語があります。
「なぜなのだろうか?」と感じたことはないでしょうか。
たとえば怨霊を描いた物語には、怨霊になっていく御霊の背景にある物語を描き、人の侘び寂や矛盾する悲哀の辛さや、その御霊の生きる苦しみがなぜ生まれることになったのか?
怨霊となってしまった御霊にならざるを得なかった、その魂の苦しみや痛みに寄り添い伝える物語もあります。
私自身は、こうした深い心や魂の世界を表現して伝える物語に込められているメッセージには、“他人事ではなく、誰にでも起こる得る可能性のある生の物語である”というメッセージと、“人の心や魂は、いつでも陰となり陽となり得る変化を起こすものであるからこそ、己の心や魂の在り方と向き合い見つめることが大切である”というメッセージが含まれているように思います。
そして、そこにはヒーローではなく、その荒魂が救われることを願い、代わる代わるに手を合わせて祈る多くの人の姿や、慈悲の想いを寄せる姿、荒魂の幸せを願う心や魂をもつ人たちの姿があるんですね。苦しみ抜いた魂を憐み《鎮魂し崇める》という慈愛があることを感じるのです。
こうした深い慈愛の魂がある人の姿は、特別な人たちの姿ではなく、昔の町民たちに当たり前のように見られた姿として描かれてもいます。“悪”とされるものを淘汰するのではなく、我がことのようにその苦しさも理解し受け入れ、許し癒すことを願う温かみのある慈愛・・
これが日本の物語の特徴として、多く描かれているように思います。
他の存在を認め、受け入れることのできる特性
日本には古来より、東洋の宗教や学問が多く入ってきています。
そして宗教にしても学問にしても、決して、一神教の教えやひとつの学問だけを選び残そうとした歴史ではなく、あらゆる宗教が存在することを自然に理解し受け入れ、あらゆる学問が存在することを許し認めるような側面があったからではないでしょうか。
日本のように宗教や学問にあらゆる多様性のみられる国は珍しいとも云われています。
そしてなぜ、この国に生きる民族に、そんなことができているのでしょうか?
不思議に思い、この国のルーツを調べて行くと面白いことが分かってきます。
日本の歴史の中にはアジアの国々のルーツも含まれていれば、アジア以外の国々のルーツや歴史の証が含まれている文献や遺跡、文化や文明の証が存在していることも分かってきます。また反対に、世界の国々の中には、日本の証と同じものが存在していることなども、近年になって分かるようになり、他の国々からも日本の研究が進み、互いに同じ証を持つ国同士の交流が始まっている現実もあります。
これは一体、何を示しているのでしょうか?
私たち日本人という民族は、一体、どんなルーツを辿って今に至るのでしょうか・・
そんなルーツを辿り始めると、日本に伝わり伝統的に残っている祭りや行事、生活様式や習慣には、世界にも伝わるとても酷似している文化を見つけることができます。
歴史を超え、国を超え、民族を超えて、日本に伝承されている伝統を辿って行くと、そこにはやはり、日本の物語にも表れていたメッセージと同じく、闘って敵を倒すことでも、相手を淘汰することでもなく、共に存在し、共に生きる、共存する道を模索する姿が浮かび上がってくるのです。
この世界が、陰と陽という2つの要素を持つ世界ならば、この日本人という民族は、“陰の中にも陽が存在し、陽の中にも陰が存在する”ということを、肌感覚で理解していて、そして、一方の陰だけに偏ることなく、陽だけに偏ることもない、《中庸》と云われるバランスある生き方を、無意識の感覚で掴みながら生きている民族なのではないだろうか・・
陰陽のどちらの要素も認め受け入れることができ、またどちらの要素も存在することを許すことのできる民族であり、認めることができ、理解のできる本質の特徴を持つ、そんな民族なのではないか、と思えてくるのです。
争うことで白黒をつけて、どちらか一方を淘汰しようとするのではなく。
我が身にも同じ要素は在るのだと悟ることのできる賢さをもち、他の異質な要素をも認めることができ理解を示し、共に共存できる道を模索しながら、協調して平和を生み出せる生き方を目指すことのできる、そんな温かみのある心や魂を本質に宿す姿が、私たちの原点なのかもしれないと感じるのです。
■4週に1回、東洋に生きる魂の原点を旅する
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